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東洋医学の解剖学の歴史(4)

前回書き忘れましたが、黄帝内経の後難経という書籍が出てきます。(詳しい成立年代は不明です。) この中にも黄帝内経より詳しく解剖学の知識が載っています。(42難~44難) さて、200年代に後漢が滅び、三国時代という時代に突入します。三国志が好きな方もいらっしゃるのではないでしょうか。 日本で言えば卑弥呼がいた時代です。 この時代に’華陀’という名医が活躍します。 華陀は麻沸散という薬で全身麻酔を行って手術を行ったそうです。 西洋で初めてエーテルによる全身麻酔が行われたのが1842年ですので、それに先駆けること1600年前に行われていました。 残念ながら華陀は三国志で有名な魏の曹操によって投獄され獄死します。 この後、中国における解剖学は非常に長い間停滞を迎えます。 一部病理解剖らしき者は行われていたようですが、五世紀頃夫の遺言に随い夫の体を病理解剖した妻が、当時の倫理観の問題で有罪となってしまいます。(賛否両論あったそうですが) これ以後、病理解剖をすることがタブーとなり、解剖の記録は10世紀頃まで待たなければなりません。(民間の説話集にはあるかもしれませんが) つづく

東洋医学の解剖学の歴史(3)

さて時代は進み、秦(始皇帝で有名ですね)、前漢、新、後漢と進んでいきます。 この新という国が出来たのが大体一世紀初めくらい。王莽という人が漢に反旗を翻して起こした国です。 この王莽が反乱軍を捕らえて解剖したとされます。 解剖自体は解剖刑といい、解剖されること自体は非常な辱めだったようです。 王莽は食肉解体職人や医師に命じて解剖し、内臓を計量や繋がりを調べ、脈管の長さを竹ひごで測るなどして、その記録を取ったとされます。 これで病を治すことが出来る、と言ったそうですので、本格的に内臓の様子が分かったのはこの頃なのでしょう。 その新はすぐ滅ぼされ、漢が復興します。これが後漢と言われます。大体この時代に黄帝内経が成立したとされています。 この黄帝内経は「素問」、「霊枢」の二種類に分かれています。 その霊枢の「経水篇」という所に人が死んだらそれを解剖できる、と言う記載があり、また「腸胃篇」「平人絶穀篇」と言う所には胃腸の長さや内容量が記載されています。 驚くべきは、この腸胃篇に記載されている食道と腸管の長さの比率は現代解剖学のそれとほぼ一致します。 如何に精密に調べられたかが分かりますね。 これは先ほどの王莽による解剖の知識の影響があるとされています。 つづく

東洋医学の解剖学の歴史(2)

さて、殷という国は周という国に滅ぼされます。 その周という国が力を失い、春秋戦国時代と言われる時代に突入します。日本では弥生時代に入る頃でしょうか。 正確な成立年代は不明ですが、この頃活躍したとされる人の「列子」という書物があります。 その中に有る逸話に本物の人間そっくりの機械人形の話が載っています。 この人形の肝蔵を外すとその目が見えなくなり、腎臓を外すと腰が立たなくなり、心臓を外すと口がきけなくなったそうです。 面白いのは、現代の中医学の内臓と体の器官の繋がりがこの時点で反映されていることですね。 (専門的には肝は目に開竅する。腰は腎の府。心は舌に開竅する。といわれており非常に関係が深い。) 此の事から、当時ある程度の解剖学的な知識があったのではないかと推測しています。 只列子の成立年代が不明なこと、後世に編入された可能性もあるかとは思うので断定は出来ませんが。 さて、この次は東洋医学のバイブルとも称される「黄帝内経」という書物が出て参ります。 つづく

東洋医学の解剖学の歴史(1)

先日東洋医学における解剖学の歴史をまとめる機会がありましたので書いてみようかと思います。 現在確認されている中国最古の王朝として殷(商)と言う王朝が有ります。これが紀元前17~11世紀の間にあったとされます。 日本では縄文時代に当たります。 その前にも夏という王朝がありましたが、考古学的にはそれらしい王朝の後が見つかった、と言う所でとどまっています。 余談ですが、中華の華は夏と音が通じ、夏王朝の末裔という意味があるという説もあります。 さて、話を殷王朝に戻します。 最後の王である紂王は最近の研究では祭祀に熱心であっととされています。 この祭祀というのは神様に生け贄を捧げることですね。 勿論動物も捧げましたが、奴隷であった人間も捧げていたようです。 当時の甲骨文字の中に「心」を表す文字があり、一定度の解剖学的な知識があったとも考えられています。 又、殷の紂王が叔父の胸を裂いて心臓が動くのを見た、と言う記載が史記にありますがこれは後世に作られた話とされています。 もしかしたら祭祀で行われていたのかもしれません。 因みに古代インカ帝国においても人間を生け贄としていたり、頭蓋骨の手術をした痕跡などが見つかっています。 つづく